断章 殺人帰

いつの事か…。
 四,五十年ほど前の話…。と言っても、その時私は三十歳だ。
 ウィングバスターとしては、死を意味すると呼ばれる愛に溺れていた。そんな時期があった。
 完全成長した筈の体であったが、童顔の所為で中学までなら行っても違和感が無かった。そんな中、『二十歳としての私』を愛してくれた男が一人居た。名を「アルス・マクライア」といった。
 彼はその青流石の持ち主だった。
 宝珠が盛んだったこの時期、どのウィングバスターも忙しく、襲い掛かる人手からアルスと私自身を守る事で精一杯だった。まともに敵を倒す暇など一切無い。倒すといったら倒す。例え卑怯な手段を使おうと、敵を倒さなければ生きていけなかった。思惑なんて探る暇も無かった。血は見飽きた。触れてみたいのは温もりだけだった…。
 宝珠を護る為に派遣されたウィングバスターの大半がその時に恋に落ちて、子を作り、殺されるという流れがあった。その流れに乗るもの、またいいような気がした。
 永遠であるが故の苦しみ。それをそろそろ感じる時期でもあった。老ける事を苦しむものが居るならば、老けない事を苦しむものも居る。それはウィングバスターにとって当然のサイクルだ。
 ただ、一歩踏み出せずに居た。
 お互いがお互いを好きでいた事は確実であっただろう。
 たった一歩だった。しかし、大きすぎる一歩。この一歩が踏み出せれば私は世界一周を徒歩で出来るだろうとも思う。
 長く短い道を越える、待つのは幸せと死。幸せのまま死ねるならばまだマシなのだろうか…。幾度と無く考えた。死に対して恐怖を持っている訳ではなく、若いまま、幸せの絶頂の状態で死ねるなら、その頃は本望だった。否、私の中には、未だに純粋な乙女心が生きていたのかもしれない。
 しかし、そうか考えても幸せは続いて欲しいものだった。
踏み出さなければ永遠だと…。
死ななければ、彼と愛をはぐくみ続けられる事を…。
 その時は信じていた…。
あの日は雨だった。
立ち止まっていては民氣の滑降の的となるだけだと考えた殺人帰こと、その時の偽名を「アルテミス・ディアナ」
その頃の偽名は完全に適当だった。アルテミスはギリシア神話、ディアナはローマ神話で、どちらも狩猟の女神。その頃から戦闘に対して異常な意識を見せていた事は確かだ。
 丁度、南米辺りをうろついていたあたり、雨の所為で川が増水し、川渡りの船が止まってしまった為、野宿をしようと洞窟の中に入ったときだった。


 平穏は続くものではないと解っていた。
 そういう職業なのだから仕方ない事も…。
 ただ、弱さを実感させる不穏は襲ってほしくない事だった。


第二章 天使

 体育祭。
 小学校でいう運動会。というのは言わずとも誰もが解る事。
 楽しみにしていた人は数知れず、また、嫌がっていてとうとうこの日が来てしまったと思っているものも数少なくない。信二としては、「何とか乗り切るだけの日」となっている。
 一方、こういったイベントは初めてなウィーバは大興奮。九時開催で八時半集合だというのに、起きた時間は五時半。弁当を作ろうとしているのではない。弁当は前日の夜に作ってしまっていて、特に心配は無いのだ。つまり、ただ大はしゃぎしているだけ。そのお陰で、弁当作りで疲れた体を無理に起して早起きする破目になった。
「信二?お前大丈夫か?」
 あぁ…先に心配してくれるのがウィーバより先に良太か…。と心に思いながらも、
「あぁ…大丈夫。何とか…。ただ、敵襲とかはヤバイかも」
 と冗談交じりで返す気力だけは残っている。
「止めろよ、洒落にならねぇ」
 笑いながら良太は信二に、気合の一発(ただ背中に張り手)を入れ、信二にも確り最後の準備をさせた。
 と言っても、中学の体育祭の最終準備といえば、ガムテープを椅子の脚に貼り付けて、後はその椅子を運ぶだけ。という単純作業だ。委員会に入っているわけでもない信二はそれで終わり。当然、七月から転校してきたウィーバも同様に委員会には入っていない。良太も。今回は神子徒がいつものメンバーで一番働く事になる。
 神子徒は保険委員で、適当な傷の応急処置を手伝う為に、テントの下で怪我人が来るまで待機という状態だ。怪我人は来なければいいのだが、必ず来る。折角涼んでいたのに、と怒っていても仕様が無い。仕方なく、保険医の指示に従って手当てをする。それは最早毎年の事で、慣れてしまって、その手当てまでの時間も早くなっている。
「よぅ、神子徒」
 なんだか今日の良太はご機嫌だ。神子徒に自分から声を掛けるなんて滅多に無い事に神子徒は顔を真っ赤にしていたのだが、その一時もつかの間…。
「須賀、済まない、こっちも手伝ってくれ」
 と、空気を全く読まない保険医にぶち壊されるのだった。

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 世界が崩壊、再生させられるなら、私は願う…。
 いつの日か…遠く、近く、鮮明に残るあの時を…。
 永遠にしてしまおうと…。
 最強と呼ばれ…。

殺人帰

 そう呼ばれるようになる。ずっとずっと前の世界へ…。
 幸せだったあの時へ…。

 周りは見えない。
 ただ、私にあるのは殺す事。
 殺して称えられるなら、もし私が最強ならば…。

私は殺そう。汝たる人を、

 上は居るものなのだろう。
 ただ、目にしていないだけ。
 最強などはこの世に存在しない。
 人には弱点がある。ならば、強さは輪になっている筈。
 ただ、人はその輪を無視して強弱を決める。
 ナンバーワンは無くとも…。しかし、オンリーワンもありはしない。
 特別な人間なんて居ない。しかし、人間は同等じゃない。
 強くあるより強く生きたい。いつから願うようになっただろうか…。
 あの時だ。
 そう言う事は鮮明に覚えている。
 私を変えた出来事を…。私を変えた人を…。私を変えた――




――人の死を





 学校が始まって早一週間が過ぎた。まだ夏の暑さは続き、これから涼しくなろうとしている事も考えられなかった。
 暑さ寒さも盆までとは言ったものの、異常気象には敵わない。この天候の以上はWMSFでもどうにかならないのだろうか?最先端技術を行っているなら…。と考えるのも暑さの所為。蒸し風呂状態の教室にいると頭が狂いそうだ。毎年の事だが、これだけは慣れない事である。
 体育祭の練習と言う事で、授業は殆ど体育。運動より机に向かった方が得意だった信二は修行のお陰でいつの間にか成長していた。元々、ジェムのお陰で体力がない訳ではない。寧ろ万能な方だ。
 それも今まで気付かなかったが、こうして知って、理解して、調整しようとすると、逆に上手く使えなくなっている。
 奏伽は相変わらずの状態で、クラスの人には不思議な人で定着した。変な人だからと言って、特にイジメなどといった行動は一切無かった。どちらかと言えば、人気な方で、何だかんだで馴染んで来ている。そして…。
「篠原君。二時間続けて体育だけど、毎年こんな感じなの?」
 信二のみ、何故か敬語ではなく、普通に話すようになっていた。信二はある程度普通に流すのだが…。
「………」
 ウィーバはご機嫌斜めの様だ。所謂嫉妬というやつだ。
 夕方になり、夕食時に突然…。
「信二と奏伽って仲いいよねぇ…」
 とボソリと呟く。
「別にそんなのじゃないよ」
 と何とか説得しようとするが、どうも弱気になってしまう。やましくなど無い。ただ、疑われる事が少し辛かった。

 次の日も…。
 その次の日も…。
 まるで信二に吸い付くかのように付き添っていた。
 いつの間にか学年では信二と奏伽が付き合っているという噂も…あくまで、ウィーバは従兄妹ということもあり、そこでくっ付く事は誰も考えていないようだ。
 困る事には変わり無い。
 当然、ウィーバについての事だ。
 情報は当然ウィーバに入らない事はない。それを毎日夕食時に言われるともう疲れる。しかし、話しかけてくる奏伽を無視するのも酷だ。
 悩みは増えに増える…。まるでガン細胞の様に。


「おいアルス。そろそろ行くぞ。事前調査だ」
 スラッとした細身の金髪男。セミロングの髪がだらりと垂れて、まるでゲームの主人公のように格好良い。
「ああ…解ってるんだが…体が…ッ!上手く動かない…」
 その横に居る肩幅の大きい、黒髪の弾けた髪で、上半身が裸の男は何かに苦しんでいる。
「アステル…これは……どういう事だ…。ウィングであるだけで…苦しむッっとは…聞いて…グゥッ…無いぞッ!」

「当然だろ?なんたって…。お前は進化前なんだから」

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「紫婁紅…何か来る」
「ん?じゃぁ紫苑、そいつ殺していい?」
 紫苑の頭に完全なる怒りマークが…
「うっせぇ!黙れクソガキが!」
「お、お取り込み中すみませ〜ん…」
 偶然ではないが…まぁ運悪く怒り狂った紫苑の真横を美夏とコウが通りかかってしまった。
 本命なのだが、隠れるに越した事は無い。そんな状況だったのだが…。
「紫婁紅。私達を探ってたのはこいつらよ」
 ゲッ!と言う声が思わず美夏とコウの口から零れ出た。
「解ってる。殺さないからやっていい?」
 ふわっと、紫婁紅から溢れ出た魔力が辺りを包み、その強さと重さから背筋が凍った。まるで三トントラックを背中に乗せたような気の重さ。ここに居るだけで、死を感じる。
「傷ぐらいなら付けていい―――

目障りだ

――ただ、殺すなよ」
 叫んだ瞬間に、紫婁紅同様に辺りを包んだ紫苑の魔力は体がペシャンコになって紙にすらならないような圧力。死ぬというより…惨殺される。肉片にされる。そう感じた…。
「解ってるよ。んじゃ…まずどっちが戦う?名前と一緒に教えて」
「…コウちゃん下がってて」
 左手でコウを後ろに下げながら美夏は前に出た。
「なっ!でも――」
「逃げよう…勝てない…。だから私が時間を稼ぐ。後で私も逃げるから、先に逃げて…。じゃないと…殺される」
 美夏の手は震えていた。
 力しかないコウには何も出来なかった。
「ちッ!ちょっと!人聞きの悪い事言わないでよ!殺さないって言ったら殺さない!」
「なら…助かる…。お願い…逃げてコウちゃん」
「でも――」
「逃げて!今すぐ!」
 逃げるしかない…。この場所に居ても足手纏いで役立たずなだけだった。認めたくない。そんな生ぬるい事で収まってくれる様な事でもなかった。場所、状況、力、全てがコウを拒絶していた。たった一つだったコウの空間。それが、今完全に崩れようとしている…。
 この場所だけ…。
 この半径十メートルにも満たないこの区間で…この空間で…コウが拒絶されていた。
「…ご、ご、ご…ッ…ゴメン!」
 走った。
 翔太を呼ぶ為に…。
 予感だけを頼りに探しながら…。
「笹倉美夏…ハンターの戦闘員、笹倉悠太郎の一人娘よ」
「ハンター?えっと…あ〜何だっけ?会った気がする。ねぇ紫苑?」
「あぁ…あの――
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 夕方の買い物も、学校に行ってるからの醍醐味で、夕日を見ながらの散歩はまた格別だ。夏は夜と言うけれど、よく晴れた日は夕焼けもまた美しい。
 まだ暑い…。
 夏はまだ続いている。
 涼しくなるまで後一ヶ月はある。辛いような気もするが、冬の寒さを思い出すと来て欲しくなくなるのは不思議だ。それなのに、中間の春には冬の終わりが嬉しくて、秋には夏の終わりが嬉しくなる。人間は不思議だ。
 日はまだ長い。
 夕日と言っても、だいぶ傾いてきただけで、日の入りまではまだ時間はある。街が闇に包まれるのはまだ少し先だ。
 一瞬先でも未来という。そうならば、一日の初めから一日の終わりも、凄く遠い距離に感じる。
 それなのに、蓄積された時間の中での一日など塵にも満たないのだ。
 夕日を見ただけでここまで考える…。
 それもなんだか不思議な事だ…。
「どうしたの?ぼーっとしちゃって」
「ん?いや、世界ってさ、色々知らないことが多くて、色々不思議な事が多いんだな…って思ってさ」
 ウィーバも疑問を持ったらしい。何考えてるの?と思いっきり顔に書いてある。
「不思議ねぇ…まぁ、疑問を持つ事は発見の一歩だから良いと思うよ」
「発見とは少し違った不思議だと思うけどな…」
 あからさまなフォローに少し苦笑いしてしまった。
 不思議…
 不思議と言えば、今日の奏伽の事…。
 仮面を被った感じで、何かがありそうな…。悪い人じゃない。
けれど…


「あぁ〜やっと力も戻ってきた…セレク戦にちょっと使いすぎたからなぁ…。イギリス行っちゃったのもあったし…」
「無理して行ってたの?」
「ちょっとね」
 理由はただ一つ…。
 どうしてもアリサに会いたかった…。アリサなら、会うだけで今の自分が救われる気がしたから…。理想と現実は少し違かったが、敵で無かった以上、問題は無いし、後悔もない。会ってよかったと思っている。
「あの時の…あのアリサの言葉…どう思う?」
 アリサを思い出してウィーバは尋ねた。
「第四形態の事?」
「そう。第四形態って動きが悪くて主に留まって完全破壊してから行動するの。つまり、少しずつ世界を破壊する最終兵器。だから、近いうちだとしたら既に近くに第四形態が居る筈なの。だけどそんな気はしない…。そうすると第三形態が進化するしかない…。でも、第三形態なんて早々に現れる筈は無いんだよ…」
「だとすると…何か問題があるの?」
「大有り。幾ら断珠世代で青流石がこの町に集まってるとは言え、この短期間で民氣が三体来るなんて、普通は考えられないの。つまり…、この町がおかしいか、世界がおかしいか、私達の…いや…、多分これは無いかな…」
 普通じゃない。裏の世界に詳しくない信二でもここまでは解った。確かに、幾らなんでも必死過ぎる。
「民氣内で情報交換とかは?」
 疑問を整理する為に一応訊く。
「そこまで無いはず。団体だったら別だけど…、でも、主に個人行動」
 予想通りだった。
 完全におかしいのだ。情報交換なしにここへ集まってくる。気配なんてそこまで遠くまで感じる事は出来ない。それに対し民氣は世界中に散りばめられている。不自然過ぎるのだ。
「情報が少なすぎる…。ウィーバ、一旦WMSFに行こう。ロイドと話がしたい」

――WMSF京都支部
緊急だった為、アフリカに居たロイドとはテレビ電話での会話となった。
テレビ電話でも流石世界の最先端を行っている世界機密局だ。格が違う。画像がブロック化せず、フルハイビジョンにプラスして大画面という環境がロイドを映し出している。
「――って訳なんだけど、どう思う?」
『うーん…忙しくてそっちがそんな危機的状況になっているのを気付いてて見過ごして忘れてしまっていたな…。すまなかった…』
「いや、別に大丈夫だよ。僕たちはまだこうして生きてる訳だし」
『確かにそうだ。それにしても…さっきの話が本当なら大変な事だ。アリサの予言は外れた事が無い…。だとすると………ッ!もしかして……そうか!すぐそこに開発局の者は!』
「はい」
 外で監視をしていた白衣の男が入ってきた。
『宝珠の探索機の強化だ!距離ではなく反応の具合を上げてくれ!出来れば信二君の青流石で今の魔流石ぐらいの反応になるように!』
「はい」
 何故かを訊かずに開発局の男は立ち去って行った。その後に…
「ロイ…意味が解らないんだけど?」
「…俺も確信は持てない。だから言いたくない。結果が出てからだ…。今日はもう帰れ。もうすぐ十時だ…」
 ロイドは考え込んでいた。ハイビジョンでなくともそれは解っただろう。
「解った。そうするよ。行こう、ウィーバ」
「………」
「ウィーバ、ほら」
 信二はウィーバの手を引いて無理やり帰った。ウィーバはどうしてもロイドの考えを聞きたかったらしい。
 
きっと、聞いたら後悔する言葉を…。

「…そんな、結果が出ない事を祈るか。でなければ、彼女に彼女たちに課せられた事は荷が重過ぎる」
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「後はこれを貼れば良いだけだね」
「許可とか要るの?」
「もう取ってある」
 珍しく準備が良い美夏にコウは驚いた。
 
 そう言うことで、二人は貼紙を張りに行くことになった。
「よう…決めたよ。俺もお前らを手伝う。一応迷惑掛けたしな」
 ベタな恥ずかしがり方で翔太は言った。
 プライドが高めの彼からしては結構頑張った方だろう…。まぁ、すぐに言わなかったのが翔太らしさだ。
「翔太が居れば戦力がだいぶ上がるよ。ありがと」
 美夏も、だいぶ翔太の事を認めてきているらしい。翔太も伸ばそうと思えば伸ばせる。それに、元々弱い訳ではなく、過小評価していた点もあった。一応、伸ばし方が悪くて素質を無駄にしている部分もある。
火を使える魔術師は多いが、水や風と組めばハンターの一人と変らない力を持てるだろう。
「で、今日の依頼は取ってあるのか?」
「今日は休むつもりだったけど…」
「休んでる暇なんて無いだろ?簡単な依頼でも受けるに越したことは無い。塵も積もれば山となるって言うだろ」
「う〜ん…それもそうだね…んじゃBぐらいかな?」
 何故か最近、翔太と美夏が話しているとコウが入れない。魔術師街の住民で無いという事が関係しているのだろうが、非常に寂しい。
「コウちゃん。依頼所行こう」
「えっ…うん」
 言葉を掛けてくれる。そんな当然な事がどこか優しく感じて、自分の気持ちが少し変化している事に気付いた。
 やはり、ここに居たい…。
 ここしか居場所は無いと解っても、誰も知らない場所が居場所と言うのもには少しだけ抵抗があった。ただ、何となく慣れていく事で、段々と…少しずつ。


「取って来たよ〜ただの下級大群の退治だけど…一応Bランクで一番高かったけど、手分けしないと遅くなるかも…」
 依頼の内容は町外れに居る何匹かのはぐれ(下級)魔獣の退治。魔獣は町の端の至る所に居て、それを全て倒して欲しいと言う事だ。
「でも、これって手分けしても見付け逃したらどうするの?」
「察知しながら歩くしか無いね…。コウちゃんは解らないと思うから説明するけど、コウちゃんの場合は一センチぐらいの風の塊と同等の力を直径百メートルぐらいの大きさの円形に分散して、その風の流れに異変が起きたらそこに何かが居るって事。それだけなんだけど、町の人に反応するから結構難しいと思う…私がやるから、安心して」
 一度コッソリやってみた。百メートルだと失敗した時に危険すぎる為、一ミリの魔力の塊を直径一メートルに分散させてみたら見事失敗した。
「翔太は熱気で出来るでしょ?」
「まぁな」
「それじゃ――」

 結局…コウは自分が足手纏いになっている感じがする『手分け』になった。
 書かなくとも予想出来るように、翔太は個人、美夏とコウがグループだ。
 美夏としては、親切のつもりだが、コウとしては何となく、少しだけ嬉しい様な…結構嫌なような…。とにかく複雑な感じだ。
「………どう?」
「東に一体。だけど翔太が向かってる。だから今は南西に向かってる。一応居るみたいだけど…」
「だけど?」
「何か変な感じがする…魔獣じゃない…気の所為かな…?でも人じゃないの」
「人じゃない?けど魔獣じゃない?先住民とかじゃなくて?」
「先住民は人間より解り易いの。形が解り易いのに力が薄過ぎるからすぐに解るんだ。だから違う」
「とりあえず行ってみよう」
「そうだね…確認しないと…」
(敵だったら…不味いな…魔力が強過ぎる…)
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「信二ぃ〜何あの子〜…」
 とぼとぼとウィーバが帰ってきた。何も考える事無く、敬語の事だとすぐに解った。
「話し辛かった?まぁ僕も困ってるんだ…」
「はぁ…何か誰とも仲良くする気は無いみたいなオーラはなってる」
 教室に戻って、ウィーバは自分の机に乱暴に座った。
 だいぶこの環境にも慣れたらしい。まぁ、最初から学校に行っていないとは思えないほど平然としていたが…。
 しかし…一体何だというのだろうか…。
(――「色々とお世話になります」――)
 奏伽が言った事。
(…矛盾してるよな)
 言動と情報が一致しない。何処かしっくり来ない。何処から違うのか全く解らなかった。
 まず、人間であるかどうかすら…。
 敵ではない。そんな気はする。
「どうしたの?」
 気付けば考え込んでいた。
「いや…ちょっと考え過ぎてたみたいだな」
 そう言えば久々に見たウィーバのこの茶髪。イギリスに言った後はずっと家に引き篭っていた所為で、しばらく見てなかった。
今考えると良く似合う…。
「あの子は多分敵じゃない…それは私も感じてる。関係者でもない。あの子の周りだけを一瞬止めてみたけど、やっぱり止まった。だから大丈夫だと思うんだけど…」
 何かしっくり来ない…。
 敵じゃない。
 それすらもしっくり来なくなっていた。
 しかし、警戒しなくても良い。そう感じる。
 訳が解らない。



「――じ…信二!」
「えっ!」
 気付けば帰り道。完全に考え込んでいた…。
「久々にあのキャラメル欲しい」
 何と懐かしい響きだろうか…。
 大した時間は経っていないのに、色々あり過ぎて、時間がいつもより長く感じる日多くなっていたらしい。体験、経験とは非常に恐ろしいものだ。
 と言っても、何度も研究したキャラメルの作り方だけは忘れてなかったようだ。
 気持ちいいぐらいに完璧な出来のキャラメルが出来た。
 初めて作った時は確か、フィールの時。あの時はウィーバに頑張ってもらうつもりだったからだ。今は…だいぶ気持ちも変ってしまった。
「うん、良い感じ。味付け変えた?」
「いや、変えてないけど…」
「ふーん、んじゃ…この感じ何だろう…いつもより良く感じるの」
「久しぶりだからじゃない?」
「うーん、そっか」
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「こんな感じ?」
 翔太の居ない間に、さっさとポスターを作って行動性が良い所を見せておかねばならない。
 と、言う訳でポスターを作っている訳だが…
「美夏さん…幾らネーム段階とは言え…画力が…」
「私が解れば大丈夫だよ」
「そう言うわけには…」
 グチャグチャの線だけ。ここからどう展開するのか全く見当も付かない…。しかし、美夏はサラサラとペンを進め、どんどん絵が展開して行く。魔法を使っている感じも無い。魔法は最終調整に使うと言っていた。
 実は美夏は小学校の頃、絵画コンクールで…
 何て設定は無い。
 自分で気付いていないだけで画力は抜群なのだ。
「何かズレた…」
 変な所で完ぺき主義だ。思っていた位置と、数ミリズレた。コウには全く解らないズレ。
「コウちゃん消しゴム」
 まるで助手にメスを受け取る医師の様に手を伸ばす。一瞬成り切って、そんな感じで消しゴムを渡した。
 段々形が出来てくる。
 幻想的な、魔法を使ってる絵。
 美夏とコウを表した水と風の芸術――
 ――の下に『真知華魔術部部員募集!』と太い文字で描かれている。
「上手いね」
「そうかな?」
「今度作品展でも出してみれば」
 作品展という言葉を聞いて、突然美夏は耳まで真っ赤にしてペンの動きも止まった。
「そ、そんな…む、無理だよっ」
「出来るって。だいじょ――」
「無理無理無理無理!はっ恥ずかしい!」
 地震が無いというか、過小評価というか…。
 真っ赤な顔でブンブン首を振って、震えた手でまた絵画に戻る。気性が激しい…。
「こ、こ、こんな、感じでいい、かな?」
 正に完璧の出来。どうして日本語はここまで人を褒める言葉が少ないのだろうか…。素晴らしい出来だ!
「最高だよ!後は色の調整を魔法に任せるだけだね!」
「うん。色は光だから光源があれば良い。焼く感じで。だからこれだね」
 ダガズが書かれたルーンの石を取り出して、魔法による着色修正を始めた。




 世界は確実に進んでいた。




「殺したい!殺したい!殺したいぃ!」
 箒に乗った状態で逆立ちという荒業をしながら暴れるという、荒業を超えた神業を成し遂げる紫婁紅。
「殺すな」
 既に半分怒っている紫苑が無理やり確り座らせる。




世界は悪い方向に進んでいた。
確実に…。




「後はこれを貼れば良いだけだね」
「許可とか要るの?」
「もう取ってある」
 珍しく準備が良い美夏にコウは驚いた。
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